夢幻3

□繰り返す出会い、共有する過去
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ふぅ、と煙草の煙を吐き出す。
風に流されふわりと空に掻き消された。
廊下から覗く中庭には受け持つ生徒達がワイワイと騒いでるのが見え、目を細める。
遥か昔の面子が、何の柵(しがらみ)にも縛られることなく、混じり合って仲良くしている姿は何かしら違和感を感じたが、それ以上に嬉しさが勝(まさ)った。

そして何の因果か自分は思い出せないはずの魂の記憶を所持したままこの世に生まれた。
他の奴らよりも先に生まれ、気付いた時には教師なんていう至極真っ当な職業に付き、あいつらの担任をしていた。
過去の記憶を持っているものは多分自分以外いない。
直接聞いた訳じゃないが、誰も話そうとしないということはさして必要がない、と言うことだろう。
どうせなら来世の記憶を持ってた方が面白かった。ドラえもんは22世紀には完成しなかったとか、来年には何が起きるとか、そういう予知的なもので楽しめたかもしれないが、前世のことなんざ結局昨日のことと一緒の枠組みなのだ。

過去は過去。
変えられない記憶。



「げ」



まずげな声が聞こえ、振り向くとそこには左目を眼帯と前髪に隠した生徒が苦々しい顔でこっちを見ていた。

「あらー、わざわざ会いに来てくれたの?高杉くん」
「ちげーよ、糞天パ」

坂本のヤローに呼び出されたんだよと素直に話す高杉に、つい顔が緩む。
高杉は坂本が受け持つ生徒で、よく知っている。という以前に遥か昔から高杉のことは知っているのだ。
何故か三年間受け持つ縁は無かったが、彼が幼いころからの知り合いで、軽口叩くほどには仲がいい。

「坂本なら随分前に職員室出てったきり帰ってきてねーよ」
「はぁ?、んだよそれ」

苛々と眉を寄せる高杉の眉間を親指で押す。

「綺麗な顔が台無しだよ」

パシッと手を叩かれ、睨まれた。

「触んな」

逆に皴寄せさせちまったな、と少し後悔した。

「まだ、そろばん塾行ってんの」
「あ?悪ィかよ」

喧嘩越しの返答にクスリと笑う。
彼の通うそろばん塾には前世で喪った松陽先生がいる。
彼の全てで、彼を狂わす原因となった先生が。
今は死ぬこともなく元気に塾を開いて、そこに高杉はずっと通っていた。
教師になるまでは俺も松陽先生の世話になっていて、今も先生はお人好しのままだ。

「最近顔だしてなかったからなーって思って」
「別に来なくていいだろ」
「冷たいなぁ、高杉よォ」

にやり、と笑うと高杉は鼻で嘲笑い、目の前を通りすぎていく。

その背中をじっと見ていると前から河上と来島が高杉にかけより、挟むようにして歩いていった。
河上と高杉の肩がぶつかり合い、高杉の笑ってる横顔がちらりと見えた。

こうして現世で、普通に笑っている彼をみると、心が軋む。

こんな普通な幸せな未来がまってんだよってあの時の彼に伝えたら、なんて言うだろうか。
あいつのことだから「ぶち壊してやる」とかいいそうだ。
あいつらしい。

なぁ、今あんた笑ってんだぜ。
楽しそうに片寄てさ。
先生の塾にも通ってんだよ。
昔の過去を越えて、幸せ掴んだんだ。
高杉よォ。

良かったな。














「銀八と何を話していたでござるか」

万斉が引いている手を止め話しかけてきた。
右目でちらりと万斉を見て、鼻で笑った。

「べっつに、何でもねぇよ」

口を吊り上げて先の会話を思い出していた。
また現世で巡りあった縁。
あいつは、昔の過去を覚えている。
俺の昔を知っている。

「随分と機嫌がよいな」
「…あぁ、気分が良い」

銀時と俺だけの記憶。
あいつはまだ知らないが、あいつだけが全てを知ってそれでもなお受け入れている。

ククク、と笑いが溢れる。





彼が近づくまで、あと数歩。





>>>アトノマツリ
転生、輪廻


(2009/01/02)

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