庭球:CP


□HAPPY BIRTHDAY
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―10月7日 18:37

“ピーンポーン”
チャイムの音に、学習机に向かっていた俺は顔を上げた。
母さん達の帰宅…にしては早いな。来客か。
テキストを手早く片付け、俺は階下へと降りる。
開けたドアの向こうで俺を待っていたのは、予想もしない相手だった。
「…越前。」
「っス。」
帽子のつばに軽く触れ、小さく会釈する越前を、俺は驚いて見つめる。
「お前…部活は…」
「部長、誕生日オメデト。」
俺の言葉を遮り、マイペースな恋人は用件を告げた。
「あ…そうか。」
昨年は菊丸やそのダブルスパートナーである大石、不二達が祝ってくれたから良かったものの、部活も引退した今、祝ってもらえるとも思わなかった誕生日などすっかり忘れてしまっていた。
「そうかって部長、忘れてたんスか。」
呆れたように越前は言うが、そんなことよりも気まぐれな恋人が態々自分の誕生日を祝うために来てくれたことが嬉しく思え、俺は聞き流す。
「お前が思い出させてくれたんだから良いだろう。」
そう言いながら越前を招き入れた。
「相変わらず部長って家にいるトキも堅苦しいカッコしてるよね。」
階段を上り、俺の部屋へと向かいながら越前はそんな言葉を洩らす。
「性格だ。」
「知ってる。」
越前が俺の家を訪れるのは暫くぶりだった。
引退するまでは何かと自宅で会話したり勉強を教えたりすることが多くあったが、俺達三年生が引退してからは越前は部活、俺は試験勉強などで忙しく、なかなかこんな暇はなかった。
「せっかく来たけど実は何も用意してないんだよね。」
俺のベッドに腰掛け、子供のように足を揺らす越前は年相応に可愛らしく見える。いつもの生意気さは陰を潜めていた。
「特に何をして欲しいとも思わないが…」
流石に口に出すのは憚られたが、越前が来てくれただけでも十分嬉しいというのが本音だった。
「でもさぁ…誕生日に何もないってツマラナイでしょ。」
悪戯をする子供のような笑みを浮かべた越前に、俺は目の前に座る恋人が本当は俺の誕生日を祝うためにだけに来たのではなかったことを悟る。
ふいに立ち上がった越前は椅子に座る俺へと近付き、そっと俺の頬に顔を近付けた。
チュッという軽い音と同時に、越前は俺に抱きついてくる。
唇を離した越前は微笑んだ。
「HAPPY BIRTHDAY 国光。」

案の定10分後に越前が口にしたのは『俺今日泊まってくから』という言葉。
いつもより膨らんだ鞄から出てきたのは1日分の着替だった。



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