庭球:CP


□捕食者
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もうすぐ試験だからと、私の部屋を訪れた彼は惰性のように教科書を読んでいる。
腹立たしい。
普段はけして成績が良いとは言えない彼は要領が良いのか、少し教科書を見直しただけで私と大差ない成績を取る。
私は要領良く物事を運ばせる彼が苦手だった。

不意に沈黙を破り仁王君が口を開く。
「柳生ー。ここ分からんけん教えて?」
私は一度テキストにノートを挟み込み、身を乗り出した。
「何処です?」
「ここじゃ、ここ。」
仁王君が指で差し示した場所は私の位置からは見えず、私は更に身を乗り出すような格好になる。
「え?」
次の瞬間、頬に柔らかな温(ぬく)みを感じた。
目を上げると、彼はいつもの猫のような笑み。
キスされたのだと分かるまで、数秒の時間が必要だった。
「仁王君!」
後退り、彼を睨みつける。
けれど、彼はそれをものともせず瓢々としたままだった。
「……だから、私はあなたが嫌いです。」



―どうあがいても私を絡め取る、捕食者のあなたが。



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