庭球:CP


□せめて隣にいさせて
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街にクリスマスソングが流れて、イルミネーションが輝く頃、俺は初めて自分の気持を知った。





―せめて隣にいさせて―





「…いま、何て言った?」
吐く息も白い、クリスマスイブの前日。
いつも通りに部活を終えて、いつも通りに深司と帰る。
その帰り道。
俺は深司の口から衝撃の言葉を聞いた。
「だから、」
深司は聞き返した俺に呆れたような表情をして、もう一度言葉を繰り返す。
「彼女が出来た、って。」
俺はあんぐりと口を開けた…というのは大袈裟にしても、その位驚いたのは確かだった。
「な、何で…」
深司に好きなヤツがいると言う話は、噂どころか本人の口からすら聞いたことがない。
お互いに知り尽してる、なんて俺の思い上がりだったのかと思うと哀しくなった。
「何でって…オレに彼女が出来るのに理由がいる訳?」
深司は相変わらず興味なさそうな態度でとんでもない台詞を吐く。
俺は愕然とした。
じゃあ深司、本気でそのコのことが好きなのか…?
ふと、目の奥がカッと熱くなった気がした。
深司に彼女が出来るなんて、嫌だ。
…嫌?
何で深司に彼女が出来たからって俺がショック受けてるんだろう。
俺も彼女が欲しいだとか、そういう気持じゃなかった。
「そりゃ、そうだけど…」
歯切れ悪い言葉を吐いて、俺は気が付く。
俺は…
深司が好き、だってこと。
俺と同じ男で、どうしようもなく口が悪くて、その辺の女子なんかよりずっと綺麗な顔をした深司が。
俺は好きなんだ。
「何?うらやましいの。」
深司はそう言ったけど、どちらかと言えばうらやましいのは深司じゃなく…相手の女のコ。
けど、俺は首を振った。
「バカ、ちげーよ。意外だっただけ。」
「ふーん。」
会話はそれで終わり。
いつもの曲がり角で、俺たちは別れた。

恋人同士でも何でもない俺たちは、別れを惜しむことも明日・明後日の一大イベントに期待を膨らませることもしない。
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