庭球:CP


□カモミールの花
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ウチで飼っていたネコが死んだ。
一週間ほど前に深司が見付けて、オレが拾ってきた白い仔猫だった。
もともと弱っていたらしく、夜中に突然吐きだして、オレの腕の中でどんどん冷たくなっていった。
オレは泣いた。
悲しかったっていうのもあるけど、目の前で体温を失って、暖かかった仔猫がどんどん冷たくなっていったことがショックで、怖かった。
誰かの体温で暖めてほしくて、それなのにその熱が消えていくことを考えて、そんなことは有り得ないのに体が震えて。
夜も眠れなかった。
深司は花束を持ってきてくれた。
死んでしまった、仔猫のために。
白い、小さな花。
カモミール。
オレはこの花を知っていた。
深司の家に生えている花だ。深司の母さんがそういうのが好きで、何種類も育てている。
でも、オレが知っているのはそれだけじゃなかった。

『あなたを癒す』

この白い可憐な花の、花言葉だ。
お茶にもされるこの花の香りは、たしかに人をほっとさせる。
花なんて興味も関心もないオレが、この花をこんなに知っているのには理由があった。
この花は、深司の誕生花。
偶然、誕生花なんてものがあることを知ったとき、周りにいるヤツらの誕生花を調べてみた。
その時に知った。
あの時には、深司にはなんて似合わない言葉だろうと半分くらいふざけていたのに、今はカモミールを持った深司が、とても優しい存在に見える。
深司はそんなこと、知りもしないだろう。
自分の誕生花、ましてやその花言葉なんて。
それでも良かった。
深司が小さな花束を二つに分けて、仔猫を埋めた地面に置く。
もう半分を、オレに差し出す。
それで十分だった。
仔猫を忘れてしまった訳でも、悲しみが消えた訳でも決してなかったけど。
オレは花束を受け取って泣いた。
喉が痛くなって、声が出なくなるほど。
深司は待ってくれた。
ずっとオレを見つめたまま。
だから、もう泣かないと決めた。
仔猫は忘れない。
けれど、もう振り向かない。



カモミールを植えよう。
ふとそう思った。
仔猫が眠る、その地面に。

来年の今日は、そこで小さいけれど綺麗な、白い花が揺れているように…。





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