庭球:CP


□記念すべき日に
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「萩之介。今日俺様の用事、終わるまで部室で待ってろ。」
HRが終わったとき、跡部は俺にそう言い残すと生徒会室へと去ってしまった。
そんなことを言われなくても、ちゃんと待ってるのに。
そう思いながらも、俺は思わず彼の背中を笑って見つめる。
何も言わなくても俺が待つことくらい、幼なじみで…恋人でもある跡部は知っているはずなのに、それでも俺にそう言ってくれる跡部が好きだった。
普段跡部を待つときは図書室に行ったり、ときどきは部活にも顔を出したりしている。
今日はちょうど部活に寄ろうと思っていたところだったから、俺は荷物をまとめると直ぐに部室へと向かった。


「…滝先輩。」
「日吉。暫くぶりだね。元気?」
「はい、」
コートを訪れると、ちょうど練習試合を終えたらしい日吉が汗を拭きながら出てきた。
「お疲れ。頑張ってるみたいだね。」
「まぁ跡部元部長に比べればまだまだだと思いますけどね。」
日吉は彼にしては殊勝な言葉を言って、悔しそうな表情をしてみせる。
「でも頑張ってるじゃない。たぶん俺、日吉と試合しても勝てないな。」
「そんな、」
そんな風に日吉と会話していると、他の部員達も寄ってきて、俺に挨拶してくれた。
「こんちはー。」
「こんにちは。」
そうこうしているうちに時間は過ぎて、向こうから跡部が走ってくるのが見えた。
「跡部!」
「萩之介、帰るか。」
「…え?う、うん。」
どこか跡部が急いでいるように見えて、俺は身を翻した跡部の背中を追いかけた。


「…萩、」
「うん?」
並んで歩く。
跡部が珍しく俺をあだ名で呼んで、俺は自分より身長の高い彼を見上げた。
「今日、誕生日だろ?」
「あ…うん……」
いつも忙しい跡部だから、祝ってくれるとは思ってなくて。
今日一緒に帰れるだけでも嬉しかったのに。
「おめでとう。」
「ありがとう…」
真っ直ぐに見つめてくる跡部の瞳が綺麗で、少し恥ずかしくて。
俺は軽く俯いた。
その俺の頤(おとがい)に手をかけて、跡部は俺を上向かせる。
「萩之介…」
「跡部?」
俺を覗き込んでくる跡部の顔が近い。
自然と、心臓がドクドク鳴った。
「いいか?」
その瞬間、跡部がしようとしていることを悟った俺は頬を染める。
付き合ってもう数ヶ月経つけれど、跡部がこんな風にあからさまに俺を求めてきたのは初めてだった。
「……うん。」
跡部の整った顔が近付いてくる。
唇が触れる瞬間、俺は静かに目を閉じた。


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