庭球:CP


□愛しい、愛しい。
1ページ/2ページ



普段は首の後ろで弛くくくった髪を解いた仁王君は、いつもより優しい笑みを浮かべて私に囁く。

『柳生、誕生日おめでとな。』
「…ありがとうございます。」

彼がここまで私に優しい態度をとるのは告白以来で、嬉しさと共に少し、気恥ずかしさを感じる。

『プレゼントじゃ。』

そう言って差し出されたのは、僅かに膨らんだ紙の袋。
受け取ると、柔らかいものが入っているのか、少しふわふわとしていた。

『開けて』
「はい…」

トクトクと心臓が鳴るのを感じる。
仁王君が私に何かをくれたのは初めてだった。

「…これ、」

中から出てきたのは、黒いリストバンド。
小さな銀色の月が刺繍されたそれは、以前から彼の手首にあったそれと同じもの。

『ええじゃろ?』

仁王君は右手を上げてみせた。
その手首にあるのは、私が手にしたものと同じリストバンド。

「…えぇ。」

本当に好かれているのか、
本当にこの関係を続けていいのか、
不安に思うことすらあったから。
本当に、嬉しかった。

「ありがとうございます…」

私は頬が紅くなったのを自覚して俯いた。

『つけて』

仁王君は私の右手を取ると、リストバンドをそっとつける。

『オソロイじゃ。』

言うと、仁王君は私と向かい合うような格好になって、自らの右手を、私の右手の指に絡めた。

『…柳生、愛しとうよ。』

仁王君はそう囁いて、
誓うように私に口付ける。

「…えぇ、私もです。」



『なぁ柳生…来年は指輪でえぇ?』

「…、はい。」

…嗚呼、私はこの人が
愛しい、愛しい―…。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ