BOL-D-OLLY

□人生斜陽中。
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 「えっと、久坂総丞君。君はどうして特刑になりたいのかな?」

 弱冠十八歳の少年、総丞はただいま特刑の面接試験というものに直面している。
緊張のあまりか、青白い顔で全身を震わせている。
 何故なら、これで二回目の面接なのだ。
通常は一回で終わるはずである。

 しかし、総丞は召喚された。
最初の面接には数人の特刑職員がいた。
ところが、この広い会議室のような部屋には、総丞と若い男しかいない。
 
 「は、はい。人を守りたいからです」

 「そう。まぁ確かに君の運動能力はいいから実戦で死にはしないだろうね。うん」

 男は大して興味もなさそうに書類を眺めている。
 総丞はというと、

 (「落ちた、これはめでたく落ちた……職探そう)

 絶望のあまりに遠い将来を事細かに設計し始めている。

 「久坂君、君は全体的に評価いいのに集団行動が異常に悪いのはどうして?」

 何よりも聞かれたくないことを聞かれてしまった。
総丞はゴクリと唾を飲む。

 「集団行動が例え評価が悪くても」
 「いや、例えじゃなくて悪いんだよ」

 無邪気に笑う男に苛苛が募るが、でも相手は上司。
しかも、その笑顔は悪気のない優しいものである。

 「でも、決して仲間の足は引っ張りません! 傷つけもしません!」

 椅子から勢いよく立ち上がると、必死に訴えた。

 「ふーん。でも人を守りたいなら他にも道はあるでしょ? ほら、例えば警察とか」

 まさか特刑の中で警察という単語が出てくるとは思いもしなかった。
緊張が限界を越えて、引きつった笑顔で総丞は答えた。

 「罪人が受けるべき罰を受けずに生きるのはおかしいと思うんです。それに、死刑が決まればほとんどが逃げます。そして逃走中に死刑以上に重い罰はないからと、また罪を犯します。私にはそれが許せません」

 初めて男は真面目に、総丞の目を見てゆっくりと頷いた。

 「それで集団行動がちゃんとできればなぁ」

 いそいそと椅子に座った総丞に、男は苦笑いを浮かべた。
対する、総丞はそれどころじゃない。

 (「やばいやばい! 集団行動の評価がこんなに重視されるとは思ってなかった……過去に戻りたい」)

 後悔の念に捕らわれて、言われたことに力なく返事をした。

 「頑張れるかな? 君の課題はいかに協調性を身につけるかなんだけど」

 特刑就任に一縷の光が見えた。
協調性のない少年は目の色を変えて一生懸命に首を縦に振る。

 「はい、頑張ります! 何でもします!」

 「じゃあ……僕の部隊に入ってもらってもいいかな」

 男はそう言って、様子を伺っている。

 「はいっ……え、現役の方?」

 総丞は意外そうに男を見た。

 「いや。君に僕の後任をやってもらおうかと」

 男はゆっくり立ち上がると、きょとんとしている総丞の黒髪をくしゃりと撫でた。

 「後任って」

 「僕、もう使えない身体なもんで」

 男は眩しいくらいの笑顔を見せた。
まだ総丞はぼうっとして彼を見ている。

 「久坂総丞君、君には第三十八部隊に入ってもらうね。よろしく」

 「待ってください、あの、貴方のお名前は」

 「僕? 深水 雅秀(フカミ マサヒデ)。つい最近まで三十八部隊の隊長だったんだ」

 深水はそう言って、自身の細い腕を組んだ。

 「ふ、深水隊長! よろしくお願いします」

 総丞は素早く立ち上がると。深いお辞儀をした。

 「はは。元だって言ったのに……面白い子だねぇ」

 ゆったりと喋る深水の声が上ずっていた。

 「久坂君、映仁と怜慈と仲良くしてね」

 総丞が顔を上げると、笑顔の綺麗な深水の顔は涙に濡れていた。
空色の澄んだ目からは、涙がするりと滑っていく。

 (「これは果たして、何の涙なんだろう。深水隊長はどうして特刑を辞めるんだろう」)

 「ごめんねぇ、一人で勝手に泣いちゃって……今から二人を紹介したいからついて来てくれるかな?」
 

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