小説
□短文置場
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よびかけ(携帯獣/シゲサト)
「シゲルー。」
「んー?」
返事はするものの、視線は相変わらずパソコンの画面を見つめたまま。
「………なんでもなーい。」
「…?そう?」
静かになる室内。
ただ、シゲルがキーボードを叩く音だけが小さくこだまする。
「シゲル〜?」
「なに?」
再び返事をし、耳を傾ける。
が、やはり視線はパソコンの画面を見つめたままである。
「…別にー。」
「??そう?」
そうしてふたたび部屋は静かになる。
サトシが呼び
シゲルが答え
沈黙が訪れる
このサイクルが何度も繰り返される。
「シ〜ゲ〜…」
「なんだい?」
今度はサトシの問いに手を止め、視線をディスプレイからはずす。
「いったいなんなんだ?さっきから呼ぶだけで…」
「やっとこっち見てくれた!」
「…へ?」
どういうことだ?という疑問がシゲルの中でグルグルとまわっている。がおかまいなしにサトシの話は続く。
「だってシゲル、俺が来たときからずっとそれしてただろ?だからなんかさー、疲れないのかなーって思ったりしたんだ!!でもシゲル呼んでもこっち見てくんないしさ、寂しかったんだぜ?」
あぁ、確かに今日は朝からずっと論文を書いていた。
サトシが来てからも
ずっと。
一応心配してくれていたのかと思い、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
それにしても、さっきまで少し機嫌悪そうだったのに、あっという間に元気になっている。
そんなサトシを見て、
「まるで犬だな。」
とこぼしてしまう。
「え?」
「いや、なんでもないよ。」
そう言ってくちもとで笑みを浮かべながら、パソコンの電源を落とす。
「あれ、シゲル論文は…?」
「別にいいよ。あれは今日中にできればいいなってくらいのものだから。」
「じゃあ!!」
どこかに遊びに行こう!
そう言って、また眩しいくらいの笑顔をみせた。