小説
□ある冬の日。
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「うぅ…、寒い。」
夕飯を終え戻って来た自室は、数十分暖房を切っていただけであったが、冷えきっていた。
室内であるのに白い息が出るのではないかと思う程に。
『相棒、大丈夫か?』
遊戯の小さな呟きが聞こえたのだろう。
夕飯の間、心の部屋に籠っていたもう一人の遊戯がふわりと姿を現し、声をかける。
「大丈夫だよ!ありがとう、もう一人の僕」
暖房のスイッチを入れ、にこりと微笑みかけると『そうか、ならいいんだが』ともう一人の遊戯も優しい笑みをかえす。
しかし、暖房を入れたばかりの部屋がすぐに暖まるはずもなく。
遊戯はデッキを手にベッドへ潜り込む。
『相棒?』
「今はまだ少し寒いから、一緒に毛布にくるまってデッキの構築しない?」
成る程、と遊戯もベッドの中へと入る。実体を持たない彼が寒さを感じることはない。しかし、遊戯が彼の分のスペースを開けているのだ。行かない道理がない。
デッキの構築を始めて小一時間後。
「このカードを入れた方がいいと思うんだけど…って、もう一人の僕?」
自分の問いかけに返事をしない彼にカードから目を放し見ると、ただでさえ大きな目をさらに大きく開き何かを凝視している。
『…相棒』
「どうしたの?」
『あれは…なんだ?』
彼の見つめる先には窓。そしてその先には。
「…雪だ!!」
『雪?』
今年最初の雪が舞っていた。
『相棒、雪って…?』
少し困惑した表情の彼。これがバラエティー番組の映像ならきっと『?』がつけられていることだろう。
「あぁ、君は実物を見たことがなかったっけ。少し前に一緒に見たニュースにでていたでしょ!」
『ニュース?』
「ほら、札幌雪まつりの…」
『あの像のやつか!?』
ようやく頭に入っている知識と合致したのだろう。遊戯を見ながら彼は嬉しそうに話す。
「そう、それだよ。」
『そうか、これが雪なのか』
そう呟くと彼は窓際へ行き、先程とはうってかわって、キラキラとした表情で外のそれを見つめる。
僕だってそんな表情しないのに、とそこまで考えて遊戯はくすりと小さく笑った。
*