小説
□今、この瞬間
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「暑い〜。」
日が沈んでいくらかましになったとはいえ、すぐには涼しくなるはずもなく。
清三郎は団扇を扇ぎながら縁側に座り空を見上げる。
紅色から藍色に変わっている最中で、いくつかの星は輝き始めていた。
やらなければいけない仕事もなく、大好きな沖田先生も用事で出かけてる今。
少しでも涼しくなればと、庭に水を撒いてはみたもののやはり暑く、へたりと廊下に倒れこむ。
ひんやりとまではいかないけれど、冷たい感触が肌につたわり、ゆっくりと目を閉じる。
普通に着物を着ているだけでも暑いのに、鎖帷子を着込んでいるため余計に暑く感じてしまう。
ちりん、と掛けられた風鈴がなる。
目を開くとそこには沖田先生の顔があった。
「沖田先生!!」
起き上がりながら名前を叫ぶと、総司は微笑みながらすごい汗ですね、大丈夫ですか?と尋ねてくる。
「あはは、ちょっと暑くて思わず横になっちゃいました!」
思わぬところを見られたせいで顔が真っ赤になるが、そんなことには気付かないほど辺りは闇に包まれていた。
「わ。いつの間にこんなに暗く…。」
「ふふっ、よく眠ってましたね。あんまり気持ちよさそうに寝ていたんで起こさないほうがいいかなって思うくらい。」
「ちょっと待ってください!いつからここにいたんですか?」
「半刻前くらいからですよ。」
清三郎が心の中で起こしてくれればいいのに!!と突っ込みをいれながら涙を流していたとき。
ふと気が付くと総司のひざの上に置かれた包みが目に入る。
「それ、なんですか?」
「あぁ、これですか?」
そう言って手にもっていた包みから出てきたのは紙紐で縛られた線香花火の束。
「神谷さんと一緒にしようと思って。買ってきたんです。」