小説
□七夕
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「沖田先生、沖田先生!!」
廊下を歩きながら沖田先生を探す。
まったく。
どこへ行ったんだろ。
「沖田先生ー!!!…う〜〜、どこ行ったんだー!!!」
「呼びました?」
!!!?
「わぁぁ!!!でたー!!」
「ひどいですよ〜。人をおばけみたいに…。」
「だって、いきなりでてきた…ってちょっと待ってください!なんですかその格好は!!」
「いや〜、子供達と遊んでたらいきなり雨が降ってきちゃって。そのままどろんこ遊びを…。」
「さっさと風呂にはいって来て下さい!!」
「はいっ!!!」
沖田先生は廊下をどたばたと大きな音を立て、ついでにびゅーんという効果音でもつきそうな勢いで走っていった。
〜数十分後〜
「ふぅ。あんなに怒らなくてもいいじゃないですか。」
ぷくーとふぐのように膨れている沖田先生にいつものように突っ込む。
「いいわけないじゃないですか!いくら今が夏で、暑いからといっても風邪ひきますよ?!」
沖田先生が風邪なんかひいたら気が気でなくて、私が落ちついて隊務につけない。
「はぁ、すみません。そう言えば、神谷さん。」
「なんですか?」
「さっき私の事探してましたけど、どうしたんですか?」
何かあったんですか?と顔をまじまじと見られ、思わず下を向いてしまう。
「いや、あの…。」
一緒に星を見ようと思って…なんて言えるわけがない。
「あぁ、もしかして。」
気付いてくれた?
そんな思いも次の一言で覆される。
「お馬ですか?」
ズゲシッ
「どうかしましたか?!神谷さん。」
「……全然違います。」
泣きたくなった。
いくらなんでもそりゃないですよ、先生。
「…違うんですか?」
「…はい。」
では何なのだろう?と不思議そうにこちらを見ている沖田先生だけど、ふと何かに気付いたように笑みを浮かべる。
「神谷さん、星がでてますよ。」
言われて空を見上げると、
夕方特有のなんともいえない空から
気づけば満面の星空が広がっていて。
隣にいる愛しい人は無邪気に微笑んでいた。
とても幸せだと思う。
「そういえば今日は七夕でしたよね。確か、彦星と織姫が一年に一度出会える日、でしたよね。」
「そうですよ。今年は綺麗な星空が広がってますから、天の川もよく見えます。雨が降ったら出会えない、というのを聞いたことがありますが、これならきっと大丈夫ですよね。」
「そうですね。きっと二人も幸せでしょうね。」
「はい。」
頷きながら、私も幸せ者だと思った。
大切な人のすぐ側に、こうしていられるのだから。
「私も幸せです。」
「…え?」
「だって神谷さんと一緒にいられるんですから。」
にっこりと微笑む沖田先生から、言われると思ってもいなかった言葉にびっくりして、何も言えなくなってしまった。
まぁ野暮天大王のことだから期待するだけ無駄でもあるが。
「神谷さんはどうですか?」
「え?あっ、私もです!!先生と一緒にいられることが何よりも幸せです!!」
「よかった。これからも私と一緒にいてくださいね。」
「…はい、もちろん。」
それは私からもお願いします。
どうか、これからも、この人と共にいられますように。
静かに手を合わせ、流れる星に願った。
fin