小説

□七夕
1ページ/2ページ

「沖田先生、沖田先生!!」

廊下を歩きながら沖田先生を探す。


まったく。


どこへ行ったんだろ。



「沖田先生ー!!!…う〜〜、どこ行ったんだー!!!」

「呼びました?」




!!!?



「わぁぁ!!!でたー!!」

「ひどいですよ〜。人をおばけみたいに…。」

「だって、いきなりでてきた…ってちょっと待ってください!なんですかその格好は!!」

「いや〜、子供達と遊んでたらいきなり雨が降ってきちゃって。そのままどろんこ遊びを…。」

「さっさと風呂にはいって来て下さい!!」

「はいっ!!!」


沖田先生は廊下をどたばたと大きな音を立て、ついでにびゅーんという効果音でもつきそうな勢いで走っていった。



〜数十分後〜



「ふぅ。あんなに怒らなくてもいいじゃないですか。」


ぷくーとふぐのように膨れている沖田先生にいつものように突っ込む。


「いいわけないじゃないですか!いくら今が夏で、暑いからといっても風邪ひきますよ?!」


沖田先生が風邪なんかひいたら気が気でなくて、私が落ちついて隊務につけない。


「はぁ、すみません。そう言えば、神谷さん。」

「なんですか?」

「さっき私の事探してましたけど、どうしたんですか?」


何かあったんですか?と顔をまじまじと見られ、思わず下を向いてしまう。


「いや、あの…。」


一緒に星を見ようと思って…なんて言えるわけがない。



「あぁ、もしかして。」



気付いてくれた?

そんな思いも次の一言で覆される。


「お馬ですか?」


ズゲシッ


「どうかしましたか?!神谷さん。」

「……全然違います。」



泣きたくなった。
いくらなんでもそりゃないですよ、先生。



「…違うんですか?」

「…はい。」


では何なのだろう?と不思議そうにこちらを見ている沖田先生だけど、ふと何かに気付いたように笑みを浮かべる。



「神谷さん、星がでてますよ。」



言われて空を見上げると、
夕方特有のなんともいえない空から

気づけば満面の星空が広がっていて。


隣にいる愛しい人は無邪気に微笑んでいた。


とても幸せだと思う。


「そういえば今日は七夕でしたよね。確か、彦星と織姫が一年に一度出会える日、でしたよね。」

「そうですよ。今年は綺麗な星空が広がってますから、天の川もよく見えます。雨が降ったら出会えない、というのを聞いたことがありますが、これならきっと大丈夫ですよね。」


「そうですね。きっと二人も幸せでしょうね。」


「はい。」


頷きながら、私も幸せ者だと思った。
大切な人のすぐ側に、こうしていられるのだから。


「私も幸せです。」

「…え?」




「だって神谷さんと一緒にいられるんですから。」




にっこりと微笑む沖田先生から、言われると思ってもいなかった言葉にびっくりして、何も言えなくなってしまった。
まぁ野暮天大王のことだから期待するだけ無駄でもあるが。



「神谷さんはどうですか?」



「え?あっ、私もです!!先生と一緒にいられることが何よりも幸せです!!」



「よかった。これからも私と一緒にいてくださいね。」


「…はい、もちろん。」



それは私からもお願いします。


どうか、これからも、この人と共にいられますように。

静かに手を合わせ、流れる星に願った。




fin
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ